食育の重要性


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平成17年食育基本法が施行され、食育という言葉を良く耳にするようになりました。私どもの研究所でも、生活習慣病を予防するために『食育』が大変重要であり、一人でも多くの方々に、"体に優しい食べ方"について理解してもらうべく、さまざまな活動を実施しております。それでは、なぜ、食育が重要なのでしょうか。


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所長家森が京都大学時代に開発したSHRは、100%脳卒中をおこすラットとして世界的に注目され、高血圧の治療薬の開発にずいぶん貢献してきました。そのSHRを研究のためにプレゼントしたアメリカから"脳卒中をまったくおこさない"というクレームがあり、その原因を調べるために現地へ向かい、結局アメリカで使用していた餌が日本のものと全く違うことがわかりました。その後、100%脳卒中を起こす遺伝子を持っているSHRというラットでも、大豆蛋白などを与えると脳卒中の発症が遅れ、予防も可能であることが次々実証されました。


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家森らは1982年にWHO(世界保健機構)に栄養と脳卒中など心血管疾患との関係を調べる疫学調査を提案し、2年後の1985年から全世界25カ国60地域を対象とした世界調査を開始しました。それらの結果、24時間採尿調査から得られる塩分摂取量や野菜果物の摂取量の推定量と、脳血管疾患の死亡率との関係では、塩分の多い地域ほどそれらの死亡率が高くなり、塩分と野菜や果物に多く含まれるカリウムの量との比率(ナトリウム/カリウム比)の値が低いほど、脳血管疾患の死亡率も低くなるというものでした。やはり、食べているものと寿命との間には深い関係があることがわかりました。


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世界60地域のデータから、食事との寿命との関係についてわかってきましたが、住んでいる地域が違う人たちを対象とした調査研究であったので、それぞれ地域によって、遺伝的背景が違うのでは?ということも考えられました。そこで、沖縄からハワイに移民した方たちと、ブラジルに移民した方たちの、それぞれの沖縄県人会の関係者にお願いをして、食習慣と健康状態を調べました。ブラジルでは少ない野菜に肉中心の食生活に加え食後に解けないくらいの砂糖をコーヒーに入れて飲むのが日課という食習慣が一般的で、沖縄の人たちの食生活も全く同じように変わっていました。健康診断の結果でも心臓死が多く、日本に住む沖縄の人たちの平均寿命に比べ17年も短くなっていることがわかりました。それとは反対に、ハワイに移住した沖縄県の人たちでは、豊富な野菜や果物が手に入り沖縄の固豆腐まで食べられるような食環境で、脳卒中による寝たきりや脳血管性認知症の人も少なく、70歳以上の日本の高齢者に比べても優秀な成績でした。

これらの結果から、全く同じ沖縄の遺伝子を持った人たちでも生活習慣や食習慣により健康の状態が全く違っていることが明らかになりました。


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日本は今や少子超高齢化社会を迎えつつあり、高齢者が病気や痴呆、寝たきりにならず健康でいきいきとした自立性を持つことが医療費削減の最大の課題で、そのためには病気になってからの治療ではなく、なる前の予防が益々重要です。最近の基礎疫学、臨床介入研究の目覚しい成果により、健康に良い食品や疾患を予防しうるという確実な証拠が得られた食品も増えてきています。また、基礎的な研究分野では遺伝子の働きをかえる力をもった栄養成分がわかってきています。
生活習慣病の発症には、遺伝子が関与するとはいえ、これからは、その遺伝子にあった食習慣を早くから身につけて、遺伝子による病気の発症を未然にコントロール出来ることが期待されています。 
したがって、これからの未来医学では、遺伝子によって病気を予知し栄養によって予防できる「予知・予防医学」が可能となり、病気予防では、どのように食べるかを知る「食育」こそが重要なキーポイントになってくると思っています。
私たちは、研究成果から得られた情報を「食育」を通して広めることで、体に優しい食べ方を食習慣にしてしまえる方が増え、少しでも多くの方の長寿に貢献できればという願いを持って研究に取り組んでおります。